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谷尻誠インタビュー
「僕は勘違いしながら生きてきた」 ~26歳の独立、建築家としての成功、そしてMaKeT。

MaKeTの発案者で、国内外から注目を集める建築家、谷尻誠。住宅、商業空間、インスタレーション、プロダクトなどその活動領域は多岐にわたる。「こうあるべき」という常識にとらわれることなく、既存の建築の枠を越えて、常に新しい価値観や意味を探し続けている彼は、自身の柔軟な発想を「勘違い」と表現した。

勘違い①:怖いものはなにもなかった、26歳の独立

広島を拠点に、首都圏をはじめ全国で活動する谷尻さん。建築家としてのスタートはどのようにはじまったのだろう?
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僕はもともと建築家を熱烈に志していたというわけではなかったんです。デザイン学校を卒業するときに、先生に進められるままに建築事務所に就職したんです。その事務所は一般的な建売住宅を設計する会社で、給料もいいし、淡々と仕事をこなしているようなかんじでした。
その後、26歳で独立したんですが、そのときも設計をバリバリやりたいというよりは、自転車レースに出たかったから(笑)。サラリーマンだと長期の休みが取りづらいので、そこから自由になりたいというのが本音でした。
独立した頃は、事務所があるのに仕事がなくて、焼き鳥屋でバイトをしているような状態(笑)。仕事が軌道に乗り始めたのは、友達の紹介で洋服屋の改装の仕事を紹介してもらってからですね。それまでお店なんてつくったことがなかったんですが、「むしろ得意です!」くらいの勢いで仕事を受けて、調べながらつくっていった。でも、できあがったものの評判はよく、それからいろいろな仕事が来るようになりました。
カフェ、美容院、飲食店など、つくったことがないものばかりでしたが、今は建築を学ぶ時期だと思って調べながらつくっているうちに、「けっこうなんでもつくれるんだな」と。26歳というのは建築家としてはかなり若く、まだなにも知らなかったと思うんですが、怖いものはなにもなかったですね。
当時の作品は、今思えば拙いところもありますけれど、「こうあるべきだ」というところからは逃れることができていたと思います。すでにどこかにあるようなもののコピーができても、誰も驚きませんよね。建築というのは、なにかしら人の記憶に残ることが大切だと思うんです。

勘違い②:「ムダ話」からはじまる住宅づくり

様々な要素、様々な思いが込められる個人住宅の設計。見る人を一目ではっとさせるような、独創的、大胆なデザインはどのうようにしてうまれるのだろうか。
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僕が住宅の設計にあたって、まず施主さんとするのは「ムダ話」。普通、LDKは何畳がいい、子供部屋はこうしたい、という話になりがちです。しかし、その人がどんな服が好きで、どんな選び方をして、どんな生活をしているのか。僕にとってはその人の価値観や嗜好を知ることのほうが大事なんです。たとえば黒い壁がほしいと言われたときに、そのままつくっても良い建築にはならない。なぜ黒い壁がほしいのかを理解することが必要です。ムダ話でその人のことを理解しないと、本当に気に入ってくれるものはつくれない。
もうひとつ大切なのは、便利にしすぎないこと。利便性を追求しても、人は必ず新しい不便さを見つけてしまう。便利さだけが豊かさに直結しているわけじゃなくて、不便でもその人にしか使えない不便さ、自分はこう使うという主体性が持てるものならば、それは生活の豊かさにつながるものだと思う。自分の趣味や嗜好にあっていたり、自分なりの使い方を考えたり、能動的な感情があれば、それが愛着につながる。いい家、いい建築というのは、「愛着をもってもらえるもの」だと思っています。

限界DIY ― ザッパラス株式会社

住宅はもちろん、オフィスや店舗の仕事も多数手がけるた谷尻さん。今回のMaKeTプロジェクトにつながるキーワードがたくさん含まれているのが、IT企業 株式会社ザッパラスのオフィス設計と言えそうだ。
2013年に、渋谷にオフィスを構えるザッパラスさんのオフィスを設計した時のテーマは、『限界DIY』。
大きなオフィスの場合、オフィス家具メーカーがバサッと家具を入れて終わり。それではどこも同じようになってしまうのは当たり前です。デスクやキャビネットも会社が用意するものだから、あまり大切にしない。
僕は、社員のみなさんが所有感や愛着を持てて、会社のことを外で話したくなるようなオフィスにしたかったんです。だったらデザインや内装にお金をかけるよりも、みんなでつくった方がいいんじゃないか。そこで、どうしても建築でつくらなければいけないところだけ施工をして、あとは自分たちでオフィスをつくりませんか、という提案をしたんです。
初めて工具持つ人もいるはずなので、難しい加工をしなくても成立するデザイン、誰もが楽しく作れる仕組みを考えました。施工の当日は、みんなで一斉に作業開始して、組立からペイントまで2日間で完成。はじめての方でも上手につくることができましたよ。

※オフィス向けの導入についてはMaKeT for Bizをご覧ください。
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勘違い③:「建築に興味が無い人」に向けた建築の本

2012年に出版された「1000%の建築 僕は勘違いしながら生きてきた」(谷尻誠著・
エクスナレッジ刊)は、作品写真は1枚もない。建築の本ではないようでいて、実は建築的なものの考え方、あるいは谷尻誠的な考えが語られた本だ。
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もともと熱心に建築家を目指していたわけではないからか、僕には建築をひとつの手段としてみているところがあります。色々と考えることが好きなので、表現方法は建築だけじゃなくてもいい。
昨年出版した本「1000%の建築 僕は勘違いしながら生きてきた」は、建築を元にものの考え方を綴った本です。例えば「1人プレイをしない」ということを考えるページでは、向い合わせで読めるレイアウトにした。本の帯を捨ててほしくなかったので、帯にまで本文を印刷したり、実施できなかった対談ページを未完成の対談としてそのまま残したり、これまでの本のあり方を考えなおすようなことにチャレンジしています。
普通、建築家が本を出すといえば作品集ですが、それでは建築に興味がある人にしか手にとってもらえない。建築に興味がない人でも「建築って面白いんだな」と思ってもらえるように、作品集ではない建築の本つくりたかったんです。
interview4_3.jpg1000%の建築 僕は勘違いしながら生きてきた
著:谷尻誠
絵:須山奈津希

発売日:2012年3月9日
本体価格:1,890円
発行元:株式会社エクスナレッジ

身近なものの見方をちょっと変えてみる。
建築家・谷尻 誠は、いつもそんなふうに考えます。それはある意味「勘違い」。
しかし、勘違いすることで新しいものが見えてきて、建築の大きな可能性が広がります。
この本は、そんな彼の考え方や建築のおもしろさを子どもにでも分かるような、やさしい語り口と楽しい絵で紹介します。

勘違い④:自分で家具をつくる満足感

建築家として実績、ザッパラスでの限界DIY、1000%の建築を経て、MaKeTはどのようにして着想されたのだろう?
MaKeTをはじめたきっかけは、僕の引っ越しのときの体験です。引っ越して、家具を買おうと思って見て回っても、どこかしっくりこない。いいものはあるけれど、それを自分の部屋に置く気になれなかった。
じゃあ自分で作ろうということで、図面を描いて、ホームセンターで材料を買って、組み立てて、色を塗ってみた。
建築家として家具を設計することはありますけれど、それを自分でつくることはない。ところが自分でつくってみたら、ものすごく満足度が高いんですよ。こんな楽しいことを独り占めしておくのはもったいないと思って(笑)、MaKeTのような仕組みを考えたんです。
普通、DIYと聞くと、デザイン的に洗練されたイメージはあまりないと思いますが、MaKeTの家具は、きちんとデザインされているのはもちろん、工具を初めて持つ人でもちゃんとつくれるように設計しています。つくり込んだデザイン家具もいいけれど、ちょっとラフな方が実際の生活には合うんじゃないでしょうか。
最近では、「DIY女子」という言葉があるくらい、DIYに凝る女性も増えているみたいですね。MaKeTがセンスのあるDIYとして広まってくれたら良いと思うし、デザインやDIYに興味がない人でも、MaKeTをきっかけにして興味を持ってくれればいいなと思います。
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MaKeT 003 SHELF

勘違い⑤:これからも勘違い。あえて空気は読まない

建築、デザイン、書籍、家具づくりのしくみ。次はなにを目指し、なにをはじめるのだろうか。
建築やデザインに興味がある人というのは、全体から見たらまだまだ一部。その中だけで何かをやるよりも、興味を持つ人を増やしていった方がいい。そのジャンルの中で砂山を取りあうのではなく、MaKeTや書籍「1000%の建築」のように、砂山を大きくすることをやっていきたいんです。
僕はさびしがり屋なので、みんなで楽しくやりたいんですよ。そうしてマイノリティだったものがマジョリティになっていくことがすごく好きなんです。
世の中に足りてなかったことを見つけて、埋めていく。「こういうものがあればいいのに」ということはまだまだたくさんあるはず。空気を読めないのは残念だけど、空気を読まないのは自分の意志。そうやって、わざと世の中とずれたことをやっていこうと思っています。
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谷尻誠 MAKOTO TANIJIRI

1974年広島県生まれ。94年穴吹デザイン専門学校卒業後、設計事務所勤務を経て、2000年建築設計事務所Suppose design office設立。建築をベースとして、新しい考え方や、新しい建もの、新しい関係を発見し、常に目の前にある状況で、見つけることが可能な新しさを提案し続けている。現在、穴吹デザイン専門学校非常勤講師、広島女学院大学 客員教授を務める。

SUPPOSE DESIGN OFFICE URL:http://www.suppose.jp/
主な活動
2003.04
毘沙門の家

広島市の高台に位置する家族2人、犬1匹のための店舗併用住宅を設計。
2003年GOOD DESIGN賞受賞
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2012.04
PASSING ON PROJECT

照明デザイナー岡安泉、プロデューサー 笹生八穂子とクリエイターユニットを結成。ミラノサローネにて「Touch to turn light into delighs」をテーマにインスタレーションを発表。
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2012.10
MOUNTAIN GYM

Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2012のメインコンテンツである「DESIGN TOUCH Park」。DESIGN TOUCH Parkのメインとなる巨大ジャングルジムをTokyo Midtownの芝生広場に制作。
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